【興行】英国という文化の”最上流”から独立した米国は、英国のスポーツであるクリケットやサッカー、ラグビーを拒み、あえて野球やアメリカンフットボールを作り出してきた。それは演劇も同じで、オペラを拒み、「ミュージカル」を1893年に作り出した。ブロードウェイがそれまでの「英国に比べて質の低い大衆演劇ばかりやっている」状態から脱皮したのは、1900年代に入ってから。英国の1人あたりGDPを米国が抜いたタイミングでもある。
【映画】ピンク映画は多くの人材を育てた。現在50~60代の一線級の映画監督たちは20~30代のころにピンク映画によって実践経験を積んでいた。
コミケやPixiv向けに創作されていたアダルト向け・2次創作が、その後の新しい作品につながっていったという話がマンガ業界でも少なくない。またゲーム業界でも1990年代後半からの美少女アダルトゲームで多くのメジャー作家が育った。
【音楽】CDは掛け算のビジネスだった。タレントが有名になれば、そのファングッズのように全国に流通する原価の安いCDが過去作品も含めて自動的に売れていった。だが2000年代から音楽ビジネスはライブが中心になってくると、それは足し算のビジネスに戻る形となった。興行は何回も同じセットを持ち回り、観客を何万人積み上げられるかの勝負で、売上は担保されるが利益率の逓減は免れなかった。
ストリーミングは音楽業界にとって、再び掛け算を取り戻すチャンスとも言える。
【終章】「海外」を目指して変えるべきは「製品」ではなく「マーケティング」である。世界市場の中で日本のマーケティング能力の低さが露呈してしまったのがこの20年である。作ることは極めていても、売ることについては商社・代理店任せ。海外の消費者理解ができていない。
感想
ゲーム史について追っていた際に見つけた本。興行、映画、音楽、出版、マンガ、テレビ、アニメ、ゲーム、スポーツについて、それぞれの市場規模やその推移・歴史を語る。ゲームってのはエンタメ業界の一部なわけで、その全体像を把握するのも面白そうだと思って。結果、期待通りの内容で、興味深く読むことが出来た。
直近で日本ゲームの未来についての番組を見たばかりで、そこでもマーケティングの重要性が語られていた。それが出来る人材は少なく、一部の人に仕事が集中している、とのこと。やっぱり日本の課題はそこにありそう。1980年代、一度は世界にキャッチアップ出来た過去があるんだから、今回も出来るはず。若手の中から人材が育ち、日本のエンタメがより発展を遂げるのを祈りたい。
ただ、海外のスポーツ業界が辿ったような、視聴率を奪うためにコンテンツを取り合い、価格が高騰するような事態は勘弁願いたいなあ。今の米騒動も同じ構図だよね。ひっそりとやっているほうが、需要側としては安価に楽しめるという面がある。もちろん、業界が盛り上がることで人材も集まり、より良質なコンテンツが生まれる可能性も高いんだけどさ。難しいところだね。
この本で初めて知った情報も多く、出会うことが出来たのは本当に良かったよ。ただ、それだけ情報をキャッチアップ出来ていない、ということでもあり、もう少し情報の取り込み口を多様化させないとダメだなあ。
そして、これだけ多様な文化を生み出しているエンタメ業界だけど、全市場規模を合わせて、やっとギャンブル業界に並ぶってのも衝撃。何の生産性も無いギャンブルだけど、人の原初の欲望ってのはこれほど強いんだなあ。モバイルゲームが家庭用ゲームの市場を圧倒出来ているのも、このギャンブル業界から一部の人を引っ張ってこれたからなんだろうな。パチンコは衰退してきているとはいえ、そこが持っていた需要は依然として在り、それが他に流れているだけ。カジノが待ち望まれているのも、当然のことなんだなあ。そこに未来は無さそうだけど。
安価で低俗なものから、次世代の文化は生まれる。ミュージカルも、映画も、マンガもそう。ニコニコ、Pixivから生まれたプロも多い。ビジネスでも、本「イノベーションのジレンマ」で語られたように、安価で低品質の技術が発展して、その後の市場を席巻する。この流れは、どこにでも通用するものなんだなあ。世の中の必然に、感心してしまった。今の低俗娯楽からも、後の時代の偉大な文化が生まれるのかねえ。時代の当事者として、その興亡の様を追っていきたい。
ギャンブル業界ほどでないかもしれないけど、エンタメ業界には人の欲望・願望が集まる。今後、どんな発展を遂げ、どんなものを見せてくれるのか、とても楽しみ。好奇心や遊び心を失わず、これからもエンタメ業界に接し続け、それが提供するものを楽しんでいきたい。