ヴェネツィア−水上の迷宮都市−

ヴェネツィア 水上の迷宮都市 (講談社現代新書)

ヴェネツィアの初冬、霧とアックア・アルタの季節を迎える。一日の中での表情の変化も、多様である。ヴェネツィアの朝は早い。まだ日が昇りかけたばかりの頃、朝もやをついて大運河には、リアルト市場へ買い出しに向かう小舟が集まり、活気を呈する。この街では、水面から立ち上がる水蒸気によって、変化する色彩の微妙な効果も高められる。光と色の変化を身上とする印象派の画家たちがヴェネツィアに魅せられたのも、当然である。

かつてペストなどの疫病に脅かされ続けたヨーロッパの都市では、人々は死の影に怯えながら生活していた。深い信仰心も、また逆に祭りに熱狂し生の喜びを表現する彼らの心情も、そのことと結び付いていたのだ。