40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

八日目の蝉

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

ああ、そっか、そうだよね。なんで私だったのか。それを抱えて過ごしてきたのは私だけではなかったんだ。なんで私が事件に巻き込まれたのかと、ずっとそう思っていた。でも本当の問いはそうじゃない。なんで私が私だったのか。なんで「私」を引き受けることになってしまったのか。父も母も、妹も、きっとずっとそう思ってきたんだ。
「こんなはずではなかった」と思う場所から、一歩も踏み出せなかった私たち。好きや嫌いではなく、私たちがどうしようもなく家族であったことに、私は今気づく。


自分がつかまるというときに、もう終わりだというときに、あの女は、私の朝ごはんのことなんか心配していたのだ。なんて−なんて馬鹿な女なんだろう。秋山恵津子も、野々宮希和子も、まったく等しく母親だったことを、私は知る。


感想
不倫相手の赤ちゃんを誘拐し、逃避行にでる女の話。全く感情が理解できず、消化不良気味に読み進んでいく。なぜそんな行動を?どうするつもりなんだ?まあ、理解したいとも思わないけどね。不倫する男の心理にしても。そんなことを言っていたら話が始まらないので、とりあえず飲み込んでおくけど。


色々な所を転々とし、誘拐から二年半後、エンジェルホームという施設も飛び出す。その時に、
この子は世界を知らないのだ。本物を何ひとつ知らない。私はこの子からそれらすべて奪ってきたんだ。これから私があなたに全部あげる。今まで奪ってきたものを全部返してあげる。
という女の心理描写が入る。
これを読み、爆発。「何言ってんだか。お前に、何を返せるというのか!」と。苛々するなあ。


小豆島での落ち着いた生活。
もし、二手に分かれる道の真ん中に立たされて、どちらにいくかと神さまに訊かれたら、私はきっと、幸も不幸も関係なく、罪も罰も関係なく、その先に薫がいる道を躊躇なく選ぶだろう。何度くりかえしてもそうするだろう。そんなことを思う。
こんな未来のない逃亡生活だというのに、もう一度選べても同じ道を取ると言う。うーん。この女の行動は間違っているし、受け入れたくもないけれど、でも、彼女の気持ちは紛れもない本物。それは認めざるを得ないな。ここまで壮絶な思い、僕は今後の人生において抱くことがあるのかなあ。その思いの強さには、ちょっと惹かれる。


僕の気持ちもようやく落ち着いてきたかな、というところで突然の発覚・逮捕。決着が付くのは物語の最後だと思っていたので、ページの半分くらいのところでいきなり終わってしまったのにびっくりした。
残りの半分は、誘拐された赤ちゃんの成人後を描く。なるほどね。こういう構成の物語だったのか。


誘拐した女と同じように、自身も不倫関係を持つ恵理菜。何だかなあ。やっぱり、一度異常な環境に嵌ってしまうと、その影響は延々と残るんだろうなあ。やるせない。
僕も、恵理菜ほどじゃないけど、それなりに特異な道を歩んできた。既にその状態からは脱しているんだけど、どこかでその影響を感じてしまう。トラウマなんて無いけれど、やっぱり得られなかったものってのはあるからな。ifを考えても仕方ないし、通ってきた道で得たもの・利点を考えようって思うようにしてるんだけど。そう思うこと自体、まだ囚われてるってことなのかなあ。きりがないね。
まあ、世の中を見回せば、それもまたありふれた人生の一つでしかないか。「普通」なんて生き方、存在しないもんな。誰しも、その人だけの物語を持っている。恵理菜も気づいたように。


そして結末。恵理菜はようやく過去を昇華できたのかな。その先にも困難は待ち受けているんだろうけど、負の連鎖を断ち切り、幸せに過ごして欲しい。
読み終わってみれば、なかなか印象深い作品だった。