ハーメルンの笛吹き男
- 作者: 阿部謹也
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/12/01
- メディア: 文庫
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十五、六世紀においても下層民の貧困はまったく解決されていなかったし、極端にいえば全ヨーロッパにおいてすら、十九世紀にいたるまで飢えの問題は解決されていなかったのである。十八世紀前半において、当時ヨーロッパの先進国であったイギリスにおいてすら、間歇的にやってきた飢饉によって莫大な数の生命が奪われている。中世ヨーロッパにおいては、ほとんど毎年どこかで飢饉、疫病、不作等がくり返されていた。
われわれは中世政治史や文化史のロマネスクやゴシックの建築に象徴される華麗な叙述の背後に、痩せさらばえ、虚ろな顔をして死にかけた乳児を抱いて、足をひきずるように歩いていた無言の群衆を常にみすえていなければならないのである。そのためには、いわゆる中世史の著名な歴史叙述者や年代記作者の記録にのみ頼るような研究手続きを改めなければならない。
彼らはもっぱら大状況の国家的事件のみを扱い、民衆の歴史には一顧だに与えていないからである。われわれの目を開いてくれるのはこうした著名な歴史叙述者ではなく、無名の修道士たちの書き遺した地域の年代記なのである。
感想
会社の先輩と話していて、塩野七生さんが好きならばってことで、同じルネサンス期を専門としている人として紹介されたのが、本書の阿部さん。こうしたきっかけで読書の幅が広がっていくのも面白いよな。
本書は、「ハーメルンの笛吹き男」の物語を出発点として、その物語の基となった出来事を追い、その過程で中世ヨーロッパの庶民の生活を描く。
著者が指摘するように、僕も歴史を知るに際し、歴史を動かす上の立場から追うばかりで、下からの目線はあまり意識してこなかったからな。たまにはこういうのも悪くない。
そうして思うのはまあ、いつも通り、お上や周りの状況・環境に左右されない立ち位置を確立したい、ってことなんだけどね。振り回されるばかりの中世庶民には無かった選択肢が与えられているってのは、本当にありがたいことだ。