街場の大学論
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2010/12/25
- メディア: 文庫
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勉強なんかしなくても、必要があればネットで何でも調べられると豪語する若者がときおりいるが、私はそういうものではないと思う。検索するためには検索のためのキーワードを知っていることが必要だ。しかし、そのキーワードそのものを知らない事項については、検索することができない。「学ぶ」というのは、キーワード検索することとは別のことである。自分が何を知らないかについて知ることである。自分の知識についての知識を持つことである。
感想
「大学生の学力低下の原因」は面白い話だった。学生にとっては受験勉強が楽になるって利点があるけれど、既に大学を卒業して働いている人たちにとっても、一面では利点があるからな。つまりは、下から優秀な人間が出てこなければ、出世競争で脅かされることもない、っていう。僕自身、年下でも優秀な人間は素直に認め、受け入れる柔軟性は持っていると思っているが、いつまでも慕われ尊敬されるのは、それはそれで悪くないと思う気持ちもあるし。そういう社会全体の合意が、今の状況を生み出してしまっているってことなんだな。深いなあ。でも、その状態がずっと続けば、日本全体が没落し、世界との戦いで敗れてしまうわけだけど。今は良くても、長期的に見れば没落の道でしかない。やっぱり何とかしないといけないよな。でも、今を犠牲にして将来を考えられる人は少ないし、日本が競争力を保つってのは日本全体の話だけど、自分の競争相手が出てくるってのは自分個人の話だからな。全体よりも個人のほうが優先されてしまうのは、どうしても仕方ない面もあるし。難しい問題だなあ。これも、致命的なところに進むまで改善されないような気がするなあ。
勉強すること、学ぶことの意味についての話も興味深い。確かにネット上に情報は溢れているけれど、そもそも土台となる、きっかけとなる知識がなければ調べようがない。僕は、狭くて深い知識よりも、浅くても広い知識を求める傾向が強いようだ。深い知識は必要になったときに集中的に取り入れればいいんだし、自分で得ずに深い知識を持つ人を使ってもいいわけだし。結局、上に立つのはそういう人間だからな。といいつつ、僕の知識の範囲はまだまだ狭い。もっともっと広げていかないと。
内田さんはこの本で、首都大学東京をこき下ろしている。「日本の高等教育史に残る劇的な失敗例となる」とまで言っている。これは2005年1月20日のブログでの発言だが、6年経ち、結局どうなったのか軽く調べてみた。確かに、当時は石原都知事が取り組んだ大学再編のゴタゴタで、かなりレベルを落としたらしい。でもその後は持ち直し、2010年の「タイムズ世界大学ランキング」では240位(国内8位)にランキングされている。これは、内田さんの予想は外れたってことなんじゃないのかな。内田さんは感情で動くことが多そうだし、大袈裟に言った面もあったのかもしれない。内田さんの教育にかける情熱は相当なものだし、それに反する都知事の考えとの違いから、悲観的になってしまったんだろう。まあ、タイムズのランキングは理系学部が引っ張った面もあるらしく、内田さん属する文系はそう大したこともないらしいけど。