永遠の0
- 作者: 百田尚樹
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2006/08/24
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 62回
- この商品を含むブログ (44件) を見る
本来、戦闘機においては、この二つは相反するものでした。しかし零戦はこの二つを併せ持った魔法のような戦闘機だったのです。
「当時の海軍について調べてみると、日本海軍の人事は基本的に海軍大学校の席次がものを言うってこと。つまり試験の優等生がそのまま出世していくのよ。今の官僚と同じね。あとは大きなミスさえしなければ出世していく。ペーパーテストによる優等生って、マニュアルにはものすごく強い反面、マニュアルにない状況には脆い部分があると思うのよ。それともう一つ、自分の考えが間違っていると思わないこと。私は、日本海軍の脆さって、そういうとことにあったんじゃないかなと思うの。」
「軍隊や一部の官僚のことを知ると暗い気持ちになるけど、名もない人たちはいつも一所懸命に頑張っている。この国はそんな人たちで支えられているんだと思う。あの戦争も、兵や下士官は本当によく戦ったと思う。戦争でよく戦うことがいいことなのかどうかは別にして、彼らは自分の任務を全うした」
戦後、米軍が日本の戦闘機の性能テストをした時、陸軍の四式戦闘機に米軍の高オクタンのガソリンを入れると、P51ムスタングよりも高い性能を示したという。P51は第二次大戦の最強戦闘機と言われている飛行機だ。その話を聞いた時、つくづく戦争とは総合力だと思った。一つ二つが優れていても、どうにかなるものではない。
感想
かなり評判が高い作品なんで期待していたけど、それに違わない物語で、ものすごく引き込まれた。フィクションとはいえ、体験者の話を基にしたしっかりした内容となっており、真に迫る話だった。今まで太平洋戦争に関する本は何冊も読んできているので、新情報というのはそれほど多かったわけではない。(「昭和史」「新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論1・2・3」「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」など)
でも、零戦パイロットの現場に密着した物語は初めてだったし、臨場感・リアリティをすごく感じながら読み進めていくことができた。ゼロ戦についてかなり詳しく知ることができた。物語のラストも良かった。おじいちゃんの話、そして宮部の最期。すごくいい本だった。
零戦パイロット・宮部久蔵の、「死にたくない」「絶対に生きて帰る」という思い。これは多くの日本兵の正直な気持ちだっただろう。宮部のように、その気持ちをストレートに表せなかったとしても。実際、ここまで自分の思想を貫けた人ってどれだけいるんだろう。僕がその立場だったとして、絶対に無理だっただろうなあ。自分の信念をどんな環境であっても貫ける人は尊敬する。僕もいつの日か、そういう強さを手に入れたい。自分のためというより、守る人がいてこその強さ、という気もするけどね。
文中に、特攻で亡くなった人たちについて、「国のために命を投げうった真の英雄と称えられた時もあったし、歪んだ狂信的な愛国者とののしられた時もあった。しかしどちらも真実をついていない。彼らは英雄でもなければ狂人でもない。」っていう記述がある。
僕もその通りだと思う。前に「『きけわだつみのこえ』の戦後史」の感想でもその思いを綴っているので、ここでは繰り返さないけど。
「かつての日本の軍隊について調べれば調べるほど、今の日本の官僚組織に通じるところがあるような気がした。」って記述は、本当にその通りだな、と。戦後の大激変においてもこの体質が変わらないってことは、今後どれだけ世界の環境が変わろうとも、日本のシステムは変わらないってことなのかなあ。停滞した今の日本を変えるためには、政党や法律なんかじゃなく、体制そのものが変わらないと改善されないんじゃないかと思っているんだけど、たとえ体制が変わったとしても、コアの部分は変わらないのかもしれない。組織を効率的に運営しようと思ったら、必然的にそういう形に行き着いてしまうのかなあ。なんだかなあ。
あと、主題とは離れるんだけど、登場人物の中に、「日本人は変わった。戦後の民主主義と繁栄は、日本人から「道徳」を奪った。」って言う人がいる。でも僕はそうは思わない。日本人の特質はそれほど変わっていないんじゃないか。今の環境に対応して、人の振る舞いが変わっただけなんだろう。環境が固定化されているために、その面しか見えなくなっただけで。環境が変われば、昔の人達が持っていたような性質はまた表に表れるだろう。「環境を変えられるのか」ってのは、また別の話だけどさ。