40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

戦略的思考とは何か

戦略的思考とは何か (中公新書 (700))

戦略的思考とは何か (中公新書 (700))

日本人というのは、過去の経緯ででき上がっているものを工夫して改善していく点ではおそらく世界一といえるくらいの能力を発揮するのですが、肌で感じないとなかなか理解しない国民なので、何もないところに論理的な整合性のある構築物をつくり上げるということになると、はたと当惑してしまうところがあるそうです。まして、それを、コンセンサスの上に築き上げていくこととなるとまずは不可能事ということになります。


一般的に日本の旧軍の欠点として、情報重視戦略でなく、任務遂行型戦略を採用したことが指摘されています。つまり勝てそうかどうかの見極めをつけてから戦闘を行なうのでなく、与えられた兵力で与えられた任務をいかに遂行するかを考えるということです。
おそらくは島国という恵まれた環境に育った日本民族の、世界にも稀な経験の乏しさ、そこからくる初心さが、外部の情報に対する無関心と大きな意味での戦略的思考の欠如を生んできたといえましょう。


画一性指向の強い日本では、情報扱いの考え方自体の軌道修正が必要となりましょう。判断に多様性があると、日本では、野党、マスコミが政府部内の不統一を攻撃し、政策決定者も、「いろいろの判断があっては困る。一つにまとめてもってきてくれ」という反応を示すことが予想されます。
これを解決するには、日々の懸案処理の部局とは別に情勢判断の部局を強化すると同時に、国会、マスコミ等に対する説明ぶりを、「複数の情勢判断を有することは情報の精度を向上させ、事態の変化に応じて柔軟な対応を確保するのに有益である」という線に沿って統一する要がありましょう。



感想
国家戦略について述べた本。過去の歴史を振り返り、現在の世界を取り巻く状況や地理的条件を整理し、これからの日本が取るべき道について提言している。といっても、この本が出版されたのは、冷戦真っ只中の1983年。主な脅威はソ連に設定されているわけだけど。でも、内容はしっかりしており、今でも全然色褪せていない。それに、ソ連の位置に中国を当てはめれば、これからもそのまま使えそうな感じ。国力的にも地理的にも。


日英同盟日米安保から得た、日本の利益についての話は、とても納得できた。そこから得た情報や彼らの戦略によって、日本は決定的な間違いを犯さずに済んでいる。本当、日本人は内に籠もってしまい、世界を見ようとしないからな。現代でも、ガラパゴスとか自分たちで言っておいてなお、まだまだ大多数の日本人の目は外に向いていない。そういう僕だって同じなんだけどさ。
そんな中、英国や米国といった、世界の情報を握っている国と組めた・組んでいるというのは、大きな価値があると思う。もちろん、自前で情報収集・戦略構築が出来るのが一番ではあるんだけど。その能力が磨かれなかったのはやっぱり、地理的条件から来る国民性のせいなんだろうな。それで片づけていい問題ではないけれど。でも、欧米が日本に価値を感じているのも、その地理的条件のおかげなんだし。面白いことできてるよなあ。日本にとっては。


日米安保という戦略が良かったから、政治における少々の戦術の失敗も致命的にならなかった。この考えもすごく面白い。まあ、日本が本当に戦略的に考えてアメリカと組んだのかってのは、かなり怪しいけど。アメリカの戦略に上手く乗せてもらえた、ってほうが当たってるような。
それにしたって、累積する戦術的失敗は戦略でもカバーできないし、そもそもその戦略もいつまで有効かは分からない。自滅に突き進む前に、建て直しを図らないと。


画一性志向についての話や、セクショナリズムについての話も、本当にその通り。いつまで経っても変わらないし、どの次元・規模の組織にも現れる。まさに国民性。国民の傾向として、これを解決することが出来ないのなら、せめて自分でコントロールできる範囲内では打破していこう。それが差別化要素にもなるわけだしね。
もともと意図して読んだ本ではなかったんだけど、かなり興味深い本だった。