恋文の技術
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/03/05
- メディア: 単行本
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何遍も何遍も恋文を書いては破き、書いては破いているうちに、俺は文章というものが何なのか分からなくなってきました。「文章を書く」という行為には、たくさんの罠がひそんでいる。俺たちは自分の想いを伝えるために文章を書くというように言われます。だがしかし、そこに現れた文字の並びは、本当に俺の想いなのか?そんなことを、誰がどうやって保証するのか。書いた当人だって保証できるかどうか分からない。自分の書いた文章に騙されているだけかもしれない。じいっと考えては書き考えては書きしていると、不思議でならなくなってくるのです。自分の想いを文章に託しているのか、それとも書いた文章によって想いを捏造しているのか。
感想
森見さんの本、6冊目。主人公が、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。相手からの返信は本文に現れず、ひたすら主人公側からの手紙のみが描かれる。
変わった形式でちょっと戸惑ったけど、なかなか面白い。主人公の手紙から、相手からの返信の内容を推測しつつ読み進めていく。実際の手紙における、相手の反応を思い描きつつ書いていくっていうのを思い起こさせるね。本当のところが分らないこのもどかしさが、本当に手紙をやり取りしているような気分にさせてくれる。
相手に合わせて変えている文体や内容。そこから、主人公自身が多面的に現れてくるってのも面白い。失敗書簡集には爆笑させられたし、最後に主人公が仕掛けた試みも面白い。ひたすら楽しく読めて、森見ワールドを十分に堪能できた。
最後に。「詩人か、高等遊民か、でなければ何にもなりたくない」っていう魂の叫びはいいね!