タタール人の砂漠
- 作者: ブッツァーティ,脇功
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/04/17
- メディア: 文庫
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その場にひとり残ったドローゴは、ほとんど幸せな気分に浸っていた。彼は砦に残ることにした自分の決心を、さだかならない遠い将来の至福のために小さいが確かな喜びを棄てるほろ苦さを、誇りとともに味わっていた。
彼は急激な生活の変化を避け、これまでどおりの慣れた暮らしにもどれることを内心ひそかに喜んでさえいる。ドローゴはずっと先きで栄光をかちうることができると思い込み、まだまだ時間は無限にあると信じて、日常生活のための卑小な争いは放棄したのだ。いずれすべてが充分に報われる日が来ると彼は考えている。
なにひとつ、ドローゴのためになりうるようなものはまったくなにひとつ残らなかった。彼はこの世界にひとりぼっちで、病に冒され、疫病患者のように追い払われたのだった。
彼の人生は戯れのうちに終わってしまったのだった、思い上がった賭けのために彼はすべてを失ってしまったのだ。
感想
「スゴ本」サイトで紹介されていた本。2013年のスゴ本ベストにも選ばれている。ならばということで読んだんだけど。これはかなり刺さる本だったなあ。読んでいて痛々しく、なんでこんなものを読んでいるんだろうと思いつつも、読むのを止められなかった。新年から重い。まあ、新年だからこそ、思いを引き締めるのにふさわしいとも言えるのかもしれない。
別に、自分の人生も同じだ、なんてことを思ったわけではないけれど。でもやっぱり、これも人生の真実の一つ、なんだろうなあ。ただ、何かを得たからといって、それがそのまま成功に繋がるわけではない。何も得られなかったからといって、そのまま失敗に繋がるわけでもない。
自分では何も動かず、向こうから幸運がやってくるのを待つばかりだから駄目なんだよな。未来に期待するばかりで、今を蔑ろにする。流される。ちきりんさんがブログで盛んに煽っているのも、これについて警告しているんだろうな。人生に対する姿勢。
何も考えず習慣に流されるのは楽だけど。望むものを得るのは難しい世の中だけど。後悔の無いよう、考え続け、選び取る生き方をしたい。