- 作者: 末木文美士
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/09/02
- メディア: 文庫
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第一は実践面で、誰にでも可能な容易な実践法をたて、それによって初めて仏教が民衆のものになった、というのである。これに対し平安仏教の修行は一般庶民とは縁遠く、所詮、貴族の仏教であり、鎮護国家の仏教であったと考えられた。
第二は理論面で、親鸞や道元の思想は宗教哲学として今日でも第一線で問題とされるような高度な内容をもっており、またそこに日本の社会に適応した仏教の日本化がみられる。これに対し、平安仏教は所詮、祈祷仏教であって、思想内容に乏しいと考えられた。
だが、果たしてそうであろうか。実践面の易行化の源流はすでに最澄の大乗戒にみえるところである。理論面でいえば、空海の十住心の体系はヘーゲルにもくらべられる壮大な体系をもっており、また、最澄の確立した一乗主義や仏性論こそ、鎌倉新仏教をも生み出す日本的仏教の源流ともいえるのである。
今日の日本では、一般に誕生や結婚など生と結びついたおめでたいことは神道で、それに対して死と結びついたことは仏教でという分業体制が確立され、それによって両宗教の平和共存が成り立っている。そこにはもともと穢れを忌むという日本人の感覚があり、それを外来の宗教にまかせることによって安定した生活構造を確立しえたとも考えられる。
私は、宗教のもつ一つの大きな特性はつねに現実の世界、現世を超出しようとする意志、現世に埋没せずにそれを超えた価値を追求する姿勢にあるのではないかと考えています。
解説
この本は、日本の仏教がどういうものだったのかを考えるための概説であり、入門書です。あなたが、日本の仏教を考えるための入門書であり、あなたが、仏教というものを持った日本人の思想の成り立ちを考えるための概説書なのです。この本は、日本の仏教の歴史を書く本ではなくて、日本にやって来た仏教というものが、日本の仏教という独特なものに変化してしまったのは何故か?何故日本人はそのことを不思議に思わないでいるのか?ということの理由を探ろうとする本です。
感想
前に源氏物語を読んで、今とは桁違いの仏教の影響の強さを感じた。今の世の中でも仏教は広く浸透しているけど、葬式の場以外の生活への影響力は低い。そこで、日本における仏教の盛衰について知りたくなった。それに、神社仏閣を訪ねるのは僕の趣味の一つでもあるし、仏教について詳しくなるのも悪くないだろうと思って。
そういうわけで読んだこの本。もうちょっとお手軽なものを予想してたんだけど、意に反してがっつり系だった。仏教初心者が始めに当たる本じゃなかったな。色々な仏教者や仏典について述べられても、全然頭に入ってこないよ。解説に「入門書」とあり、ちょっと笑ってしまった。「マジかよ!」と。まあ、僕が求めている内容ではあったんだけど。難しいところは無理に追わず、面白そうなところだけ拾っていった。それでも、中身が濃い分、色々と知ることができ、勉強になった。
一番知りたかった、源氏物語の時代である平安期の仏教の状況についても知ることができた。当時の仏教は「一般庶民とは縁遠く、所詮、貴族の仏教であり、鎮護国家の仏教であった」とのこと。なるほどねえ。ということは、当時の庶民は悲観主義に陥ることなく、楽しく暮らしてたんだな。(生活に余裕はなかっただろうけど)そもそも、日本人は世界を肯定的に捉えており、仏教によって初めて世の中を儚んだり悲観したりする、現世否定の精神を知ったんだってさ。面白いなあ。
なんでそんな、日本人の肌に合わないものが浸透したんだかと思うが、それだけ外来の文化に対する憧れやありがたみの気持ちが強かったんだろうね。実際、その技術や知識には相当の差があっただろうし。まあ、外来の文化を求めるのは今の日本でも変わらないけどね。
鎌倉期には仏教がお手軽になってきて、庶民に広まるようになった。親鸞・道元・日蓮なんかの有名どころも登場し、思想的にも色々発展していった。と言いつつ、名前は知っていても、その思想は全然知らないわけだけど。ここらは基礎どころだろうし、他の本で補強しておかないといけないな。
今の日本の、「神道と仏教の平和共存」という考えも面白い。日本人は無節操に様々な宗教を取り入れているように見えるけれど、そこにはそれなりの生活の知恵ってものが働いているのかな。無意識に最適な状態を作り上げることができるって、凄いよなあ。外来文化を変質させるのも、日本人の能力。日本人も捨てたもんじゃないな。「悲観主義」についても、さっさと変質させればいいのに。それとも、今の状態こそが、バランスをうまく保っている最良の状態なのか?もしかしたらそうなのかもしれないなあ。
この本の全てを理解できたわけでもないが、結構楽しかった。べつに深入りするつもりはないけど、もう少し追っていきたいと思う。