ゲンロンカフェが大事にしているのは、「考える」という行為です。思考は誤配=雑談から生まれます。そして無駄な時間を必要とします。ひとはたいていの場合、まったく思いも寄らないようなことをきっかけに「考え」始める。そのきっかけは、ゲンロンカフェで登壇者が発した、何気ないひとことのようなものかもしれません。
合理的な情報伝達からこぼれ落ちる「考える」という行為のための場、それがゲンロンカフェなのです。
ゲンロンはオンラインをうまく使いながら、オフラインの価値を高めることを旨としてきた会社です。オンラインの情報発信を「オフラインへの入り口」として使うことで、オンラインが消してしまいがちな「誤配」を仕掛ける、というのがゲンロンの哲学でした。
それは「観光」にも通じます。観光地の情報はオンラインで簡単に手に入ります。わざわざ現地まで身体を移動しなくても、情報そのものは簡単に入手できるのです。
けれども、それはやはり観光ではないのです。オンライン観光では現地に行くまでの時間をつくることができない。旅の価値のかなりの部分は、目的地に到着するまでのいっけん無駄な時間にあります。そのときにこそひとは普段とはちがうことを考えますし、思いかけぬひとやものに出会います。そのような経験こそ「誤配」です。ゲンロンは、その無駄にこそ価値があると言ってきたわけです。
感想
本書は、東さんのこれまでの歩みを振り返る作品。その振り返りを十分に楽しむためにも、先にゲンロン誌を10巻まで読み、ようやく本書に着手することができた。
過去の失敗を赤裸々に明かしつつ歩みを振り返る内容。本人はよくこれを明かせたよな。その勇気は凄い。その失敗はありつつも目指す理想があり、その中で実績を積み重ね現在を掴んでいる。だからこそ、多くの人に共感され本書は評価されたんだろうな。さすがは東さん。
「考える」きっかけとなるゲンロンカフェ・配信。そして、観客の「見たいもの」を変形させる啓蒙作業。今の時代に、本当に必要なもの。僕も、こういうところで目を開かせてもらわないと、延々とyoutubeを見続けるだけだからな。「観光客」として身軽に垣根を越えて色々な世界を垣間見る軽薄さ、行動力ってのは大切。現実での観光旅行と合わせ、「知の観光」もゲンロンと共に進めていきたいね。