- 作者: ダンテ,平川祐弘
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/08/26
- メディア: 単行本
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『神曲』はほぼ等しい長さの百歌、計14233行から成っているが(地獄篇4720行、煉獄篇4755行、天国篇4758行)、質量ともに抜きん出た西欧文学の絶頂といえるだろう。この均斉のとれた三部構成は、芸術家ダンテの意識的かつ意志的努力の結果なのである。しかもその内部では前後相応じた伏線があり、ヒントがあり、その複雑な構成は実によく考えて造られた建築物という感じがする。
西洋ではダンテは「キリスト教世界の最高の詩人」といわれてきた。西暦2000年、ロンドンの『タイムズ』紙が文芸付録で「過去千年間の最高傑作は何か」というアンケートを高名な文芸批評家たちに対し発したところ『神曲』が選ばれた。
西洋美術史で画家・彫刻家の第一の発想源は『聖書』だが、第二はダンテ『神曲』である。それは日本美術史で芸術家の第一の発想源は仏典だが、第二は紫式部の『源氏物語』であるようなものだろう。
感想
「座右の古典」で紹介されていた本。この作品はまた、「不思議の国のアリス」のように、いやそれ以上に多くの本・絵画・ゲームその他のネタ元になっている。いつかは読みたいと思っていて、ようやく実現したよ。読みやすい翻訳だったし、解説あり、挿絵ありで、挫折することなく読めた。かなり分量のある本だからね。聖書は読んだことがあるし、これでまた西洋美術をより楽しめるようになったかなあ。
「神曲」については、地獄・煉獄・天国を巡り歩く、っていう大枠くらいしか把握していなかっため、今回、その細部まできっちり追うことができてかなり満足した。キリスト教の世界解釈にも色々と触れることができた。ダンテ流の解釈も入っているのかもしれないけどさ。相対主義的な思想を持つ僕だから、彼らの、自分中心の思想には一歩引いてしまうところもあるんだけどね。キリスト前の人たちは、救いをもたらしたキリストを知らないんだから地獄へ、って考えとか。一応、地獄の1層に配置しているとはいえ。まあ、それをここで言っても仕方ないか。
構造的によく練られた作品だっていうのは良く分かった。ただ、詩情を解するような繊細さは持っていない僕だからな。「過去千年間の最高傑作」という本作を本当の意味で理解できたわけでもないよな。ゆくゆくは、そういうのも味わえるようになりたいところ。