一神教の起源:旧約聖書の「神」はどこから来たのか (筑摩選書)
- 作者: 山我哲雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/08/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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(⇒多神教国家も同じ)
古代イスラエル人がもともと砂漠の遊牧民であったという発想は、ほぼ確実に間違っている。イスラエルという民族も彼らの一神教も、「乳と蜜の流れる地」と呼ばれるカナンの地自体の中で成立したのである。
人が大きな苦難に見舞われた場合、それが不条理であればあるほど、受け止めたり耐え忍ぶことが困難になる。しかし、その苦難の理由や意味が何とか納得でき、「腑に落ちる」ような場合には、それを耐え忍んだり克服することがより容易になるのである。それは同時に、破局と苦難の責任をすべてイスラエルの側に帰すことにより、ヤハウェを免罪しようとする弁神論でもある。その究極の目的は、言うまでもなく、前586年の破局をヤハウェの敗北や無力さを示すものと見る「誤解」を打ち砕き、ヤハウェのみへの信仰を保たせること、すなわち信仰の危機の克服である。
感想
巡回しているリタイア系ブログ「40代リタイアを目指す男の節約・投資ブログ」の中で紹介されていた本。もともと宗教・思想関係には興味あるんだけど、それが僕のもう一つの興味対象であるリタイア系から紹介されたのがちょっと嬉しくなり、読んでみた。考えてみたら、読書とリタイアは親和性が高そうだし、意外でも何でもないんだろうけどね。
決別しておく必要のある俗説として、「一神教が砂漠とそこに住む遊牧民の文化の産物であるという見解」が挙がっていた。「過酷な環境下だからこそ、絶対的な権威を持つ唯一神の観念が生まれた」ってやつ。
僕も前に聞いたことがあり、「なるほどなあ。確かにそういうものかもな。」なんて納得していたんだけど。見事に否定されてしまった。安易に流されない、結論付けない、ってのはいつでも意識しているつもりだったんだけど。まだまだだなあ。こういう勘違いを正していくためにも、常に情報を取り入れていくってのは大切だな。
あとは、旧約聖書の成り立ちについての裏話等々。そこで描かれる時代の背景とか、記述の裏側にある事情や思惑とか。旧約聖書についてはそれなりの知識を持っているため、すごく楽しく読むことが出来た。こんなに知的好奇心が刺激されて読むのが止まらない読書は久しぶり。それにしても、こんな大昔のことを、数少ない証拠からよく描き直せるよなあ。研究者ってのはすごいね。
旧約聖書の筆者たちについて。彼らは、自分たちの信仰を守るため、文書に手を加え、思想を発展させていく。裏事情を知らない人たちはいいとして、その操作に携わっている人たちは、それが事実ではないと分かっているはずなのに、それでも問題ないのかね。一番大事なところさえ守れれば、その手段は問わないってことかねえ。「見たいものしか見ない」。こういう人間性ってのは興味深いね。まあ、傍から見ているからこそ言えることで、それに巻き込まれる身としては堪ったものではないだろうけど。