鎌倉の様式には日本的な感性がありますな。日本人的というたほうがいいかもしれません。飛鳥や白鳳も美しいでっせ。大陸からの文化を吸収して、日本の風土に合わせるという偉大な知恵が盛り込まれていますが、日本の独自の形といいましたら、鎌倉あたりの様式で完成してくるように思いますな。それをすぎて室町に至りますと、装飾に走り、嫌味が出てきますな。華美に走りすぎて堕落してくるんですな。
鎌倉時代の建物は線が素直で独特の美観があって美しいですわ。それは自然を生かしつつ自分らの意思を表現しているからですな。当時の人たちの生き方が出ていますな。生きること、死ぬことを考える潔さ、それまでの古い仏教に衝撃を与えた禅という考え、簡潔で力強く、斬新で控え目というんですかな。精神性がありますな。
法隆寺でいいましたら舎利殿、絵殿、それと何といっても東院の鐘楼ですな。
法隆寺や薬師寺に参拝に来ても、すぐに帰らんとよく見てくださいな。学校で習った、ここが1300年たった日本で一番古い建物やとか、これが唯一残されている白鳳の建造物やといわれて、それだけで通りすぎるんやなしに、そこにどれだけの人が参加してこれを造ったのか、すべて人の手で造られたんやということを、ちょっとでも考えて見てくれるといいですな。
これらの建物の各部材には、どこにも規格にはまったものはありませんのや。よく見ましたら、それぞれが不揃いなのがわかりまっせ。それがあの自然のなかに美しく建ってまっしゃろ。不揃いながら調和が取れてますのや。
感想
勢古さんの本「それでも読書はやめられない」で、別格の作品として紹介されていた本。勢古さんのお勧めは当たりの確度が高いけど、本作もその期待に見事に応えてくれた一冊だった。本当にありがたい。今後も参考にさせてもらおう。
法隆寺の宮大工・西岡常一さんと、その弟子・孫弟子に聞き取りして書かれた本。今までの僕には全く縁のない世界の話だけど、だからこそ興味深く、心に深く響く読書となった。檜の香りを嗅ぎたくなったし、木彫りに挑戦してみるのも面白そうだとも思った。
あと、実際に法隆寺や薬師寺にいって建築を見てみたいと思った。前に行ったことはあるけれど、改めて。不揃いな木、節のある木。学術模型も見てみたい。西岡さんが言っていたように、ただ本で学んだ知識だけを元にちらっと一見したって、得られるものは本当に少ない。西岡さんの言葉は耳に痛い。だからこそ、少しでも得るものを大きくできるよう、やれることは色々と試していきたい。再挑戦。
性格的にも、深める方向には向いていない自分だけど。客観的な評価なんかはどうでもいいけれど、自分自身で満足できる生き方をしたいもんだ。