40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

坂の上の雲 6

坂の上の雲 <新装版> 六

坂の上の雲 <新装版> 六

児玉が閉口しきっていることは、新聞が連戦連勝をたたえ、国民が奉天の大勝に酔い、国力がすでに尽きようとしているのも知らず、「ウラルを越えてロシアの帝都まで征くべし」と調子のいいことをいっていることであり、さらに児玉がにがにがしく思っていることは政治家までがそういう大衆の気分に雷同していることであった。


日本においては新聞は必ずしも叡智と良心を代表しない。むしろ流行を代表するものであり、新聞は満州における戦勝を野放図に報道しつづけて国民を煽っているうちに、煽られた国民から逆に煽られるはめになり、日本が無敵であるという悲惨な錯覚をいだくようになった。
日本の新聞はいつの時代にも外交問題には冷静を欠く刊行物であり、そのことは日本の国民性の濃厚な反射でもあるが、つねに一方に片寄ることのすきな日本の新聞とその国民性が、その後も日本をつねに危機に追い込んだ。


「日本の損害は水雷艇三隻」という、信じがたいほどの軽微さで、無傷というにちかかった。この日本海海戦にあっては、ロシア艦隊の主力艦のことどとくは撃沈、自沈、捕獲されるという、当事者たちでさえ信じがたい奇跡が成立したのである。
撃沈されたロシア軍艦は戦艦が六隻、巡洋艦が四隻、海防艦が一隻、駆逐艦が四隻、仮装巡洋艦が一隻、特務艦が三隻で、捕獲されたものは戦艦二、海防艦二、駆逐艦一、抑留されたもの病院船二。脱走中に沈んだものが巡洋艦一、駆逐艦一で、他の六隻(巡洋艦三、駆逐艦一、特務艦二)はマニラ湾や上海などの中立国の港に逃げこみ、武装解除された。わずかに遁走に成功しえたのはヨットを改造した小巡洋艦一と駆逐艦二、それに運送船一のみにすぎなかった。



感想
坂の上の雲」の最終巻。日本海海戦について。完勝に終わったという日本海海戦について、ようやく詳しく知ることが出来た。「人類が戦争というものを体験して以来、この戦いほど完璧な勝利を完璧なかたちで生みあげたものはなく、その後にもなかった。」と言うほどの勝利。すごいことだ。ここに至るまでの全ての積み重ねが見事に結実して良かったよな。


この巻でも、日本の新聞についての苦言が述べられている。新聞が、「叡智ではなく流行を代表するもの」っていう意見は、本当にその通りだな。誕生以来その性向が変わらないってことは、今後も変わらないんだろう。一方に片寄る性向についても。それが日本人ってことか。悲しいことだ。そのことを念頭に置き、信頼できる情報源を求めていかないと。

そして、そういう空気の中でも流されず、終戦に向けて首脳部が動いていったのはさすがだな。落とし所をちゃんと考えてから実行に移したこともそうだし。まあ、状況を冷静に分析して判断するってのは、上の人間には当然に求められることではあるんだけどね。当時も、一部には大衆に雷同する政治家がいたようだけど。
今、そういう人間ばかりになってしまったのは多分、自分が国を背負っているという責任感が希薄になっているからなんだろう。歴史・慣例が積み重ねられるにつれ、それを踏襲することが増えるし。人数が多すぎて調整も大変だし、自分が主導し変えられる部分が減っていった。政治制度は刷新すべき時に来ているんだろうな。


日露戦争は勝利に終わったわけだけど、それ以後の太平洋戦争や、今の閉塞した状況に対し、日本人は劣化したなどと言うつもりはない。新聞の項でも見たように、日本人の性向は変わっていない。悪い部分は変わっていないけれど、良い部分だって変わっていない。一度大目標が掲げられれば、それに向かって国民一丸となって全力で立ち向かえる。現状、それを発揮する状況でないってだけで。いつかは必ず。まあ、そういう追いつめられる状況にはならないのが一番なんだろうけどね。でも、そろそろそんなことは言ってられないのかも。茹で蛙状態はいつまで続くことかな。


坂の上の雲」という大著をようやく読みきることが出来て満足だ。これ以外にも、読めていない古典や名著は数多くある。今後もどんどん読んでいきたい。