40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

さよならニッポン農業

さよならニッポン農業 (生活人新書)

さよならニッポン農業 (生活人新書)

農地の現況記録の杜撰さは、関係者の間では公然の秘密でありながら、対処は先送りされるばかりで、無為に時間が過ぎていきます。かりに記録を正す作業を始めれば、膨大な労力と時間を要します。土地に関わる他の部局も巻き込んで大騒動になるかもしれません。過去の違反転用や相続税の徴収漏れも発覚すれば、地権者や行政関係者、さらには政治家からも、反発や意趣返しがあるかもしれません。
社会保険庁の場合と大きく異なるのは、農地基本台帳の問題に対して社会の反応が鈍いことです。テレビ番組や新聞記事で実態が報道されても、市民はほとんど反応しませんでした。


日本の場合は、農業の内部での競争メカニズムが働かないため、いくら保護してもそれが農地の有効利用や耕作技術の向上につながりません。かりに現行の日本農業の高保護を維持するにしても、農地市場に競争メカニズムの導入が求められる点には変わりがありません。逆にいうと、ほんとうに農業の強化を願うのであれば、高保護のみならず農地市場に競争メカニズムを機能させるための論陣を張らなければ主張に一貫性がないと判断せざるをえません。


近い将来、農水省が、減反の前面撤廃はもちろん、農地の売買も貸借も転用も耕作放棄も、全面的に規制を外してしまうのではないかと、私は恐れています。農業委員会やJAが無力化し、しかしそれに代わる秩序維持のシステムもないとなれば、すべてを勝手気ままにまかせらうより方策がないということになりかねません。個々人の勝手気ままな農地利用が、日本農業を滅ぼすという最悪のシナリオになります。


民主主義に関して、われわれは大きな誤解をしているのではないでしょうか。民主主義には二つの基本要素があります。ひとつは、私権の主張で、市民が自己の利益を主張することです。もうひとつは市民参加といって、市民が行政の一端を担う義務を負うというものです。
私権の主張について、いまの日本は欧米に比肩するとみてよいでしょう。ところが、後者の市民参加という点では、どうでしょうか。土地利用における無軌道ぶりをみる限り、参加民主主義の導入を日本社会は怠ってしまったと感じられます。



感想
日本の農業・農政の問題点について。TPPの交渉参加を巡っては各党様々な意見を持っているようだけど、そもそもの現状を知らないことには、どういう方向に進むべきなのか分からない。
それほどページ数のない本書だったけど、これだけでも色々と知ることができた。個人的に、JAの歴史について知れたのは興味深かった。


「TPPに参加すれば」とか、単一の施策で全ての問題が解決するわけではない。今の事態に陥ったのは、日本国民の関心の薄さのせい、という面もある。民主主義を維持するためには市民参加が必要ってのは、その通りだよな。権利ばかり主張して義務を怠れば、そのうち権利なんて名ばかりになる。既にそれは進行している。
農業に限らないけど、この人任せの体制は今後も続いていくんだろうな。とはいえ、永続するシステムなんかは無い。その転換点が僕の生きているうちに起こるかどうかは分からないけど。備えはしておかないと。