40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

一般意志2.0

わたしたちはいまや、ある人間がいつどこでなにを欲し、なにを行ったのか、本人が記憶を失っても環境のほうが記録している、そのような時代に生き始めている。

来るべき総記録社会は、社会の成員の欲望の履歴を、本人の意識的で能動的な意志表明とは無関係に、そして組織的に、蓄積し利用可能な状態に変える社会である。そこでは人々の意志はモノ(データ)に変えられている。数学的存在に変えられている。

 

市民の積極性を前提とする従来の政治参加の回路は、結局のところ、問題の政策に強い利害関係をもつ特殊な人々か、あるいは政治参加そのものを目的とした「プロ市民」しか集めることができない。そのような状況において、ネットに溢れる無意識の履歴の分析は有力な選択肢になるはずだ。

「市民がたがいにいかなるコミュニケーションも取らな」くても、「小さな差異が数多く集まり、結果としてつねに一般意志が生み出され、熟慮はつねによいものとな」る国家。

 

そもそも現代社会においては、熟議の理想は成立がむずかしい。市民すべてが公民として自覚をもち、議論を交わし、政治の場に積極的に参加するという事態は想像すら難しい。

政治思想はいままで、あまりにも理性を信じすぎてきた。しかし実際には人間の能力には限界がある。人間は理性だけでは社会の複雑さに対応できない。だとすれば、社会の基盤は、個人の理性よりも、むしろ人間の「群れる動物」としての本能に求めたほうがよいのではないか。

 

 

感想

東さんが2011年に刊行した本。存在自体は知っていたけど、10年前の本だし、今となっては古い情報かなと思って読んでいなかった。なんだけど、シラスの番組視聴を続ける中で、東さんが「観光客の哲学」の増補版を計画しており、その中で、本書「一般意志2.0」のアップグレード版を盛り込むと話していたことで興味を持った。アップグレードが必要なんだからやっぱり古い内容なんだろうし、増補版は来年にも刊行予定とのことなので、まあそれを待っても良かったんだけど。東さんの思想の集大成になるという増補版、それを万全の体制で迎えるためにも、先に本書を読んで予習しておきたいと思い、読んでみた。

 

結果、今の政治の閉塞状況を打破する可能性を秘めた、かなり面白い本だった。これは敬遠していたのが勿体なかった。
「理念・理性では人はもうまとまれない。人の動物性にこそ連帯の可能性がある」という主張。これは面白くて興奮する主張だな。イデオロギーが対立し、SNSでそれぞれの立場からの攻撃が飛び交っている現在。理性を極めれば一つの意見に収斂するなんて期待が、全くの的外れであったことは既に明らか。政治への参加を呼びかける試みが功を奏さないのも明らか。無駄なことに期待し、失望し続けるのは、愚かとしか言いようがない。

 

そうではなく、人々の無意識の活用こそに、連帯の道を探る。そのための環境は今、整ってきている。もちろん、人の欲望をそのまま実行に移しては、ポピュリズムに堕してしまう。でも、無意識には一部の政治参加する人の意見だけではない、全ての人の意見・欲望が現れてくるんだから、どちらを重視すべきかは明らか。意見が出揃っているのであれば、そこで優先順位の付けようもあるだろう。科学技術の発展に、今こそ希望が持てるような内容だった。

 

個人的にも、総記録社会の到来は望むところ。情報技術の力によって自身の思想が自動的に抽出される世の中になったら、面白いだろうな。本当、早く実現しないものかなあ。

 

東さんの主張は分かった。ただ、現在のツイッターやニコ生は、その理想からは遠い場所に行ってしまった模様。可能性はあったのに、それを上手く引き出すことが叶わなかった。東さんの増補版は、そこら辺も考慮して書かれるんだろう。どんな未来を提示してくれるのか、今から刊行が楽しみだ。