坂の上の雲 3
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/05
- メディア: 単行本
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日本政府は、日露戦争を遂行するにあたって短期決戦方針をとった。きわめてみじかい期間内で連戦連勝してしまってさっさと講和へもちこまねばかならず敗戦することを、その政府・陸海軍の要人たちはあげて知っていた。その講和を、ロシアが承知するような情勢にもってゆかなければならない。そのためには、ロシア帝政に危機をもたらすことであり、つまり革命をおこさせることであった。
⇒明石による、ロシアでの工作活動
乃木軍の作戦のまずさとそれを頑として変えようとしない頑固さは、東京の大本営にとってはすでにがんのようになっていた。事は簡単なはずであった。二〇三高地さえおとせばたとえ全要塞が陥ちなくても、港内艦隊を沈めることができ、旅順攻撃の作戦目的は達することができるのである。兵力を損耗することもよりすくなくてすむであろう。
「二〇三高地を攻めてくれ」と、大本営ではさまざまな方法で、乃木軍司令部にたのんだ。が、命令系統からいえば、大本営は満州軍総司令部をとおさねばならず、乃木軍を直接指導できない。さらに現地の作戦は現地軍にまかせるという原則がある。そういう手前、命令ということはできない。示唆できる程度である。大本営がもっている権限は、乃木も伊地知も辞めさせてしまうことであった。が、作戦遂行中に、これはなんとしてもまずい。
感想
この3巻では、まだ二〇三高地の戦いまでは描かれていない。でも、旅順での攻防があそこまで悲惨なことになった根本の原因については、2巻から読み取れる。参謀長である伊地知の無能、頑迷。乃木の名前ばかり有名なため、この人物については知らなかった。上に立つ人間が駄目だと悲惨だよな。本当に苛々する。それに付き合わされるほうは堪らない。そこで反乱なんか起こしていては組織が成り立たないだろうけど、だからこそ、上に立つ人間にはそれ相応の覚悟・責任ってのを強く意識してほしいよな。真実命を懸けるほどの。
余力の無い日本がそんなことをしていてよく勝てたものだと思うが、それだけ、ロシア側の拙さも相当なものだったってことだよな。ロシア側に立って見れば、苛々の度合いは日本の比じゃないだろう。数でも装備でも勝っていたはずなのに、順当に普通にやれば勝てたはずなのに、何でこうなるんだよ、と。まあ、戦争に爽快さなんて求めるものじゃないけど。
著者の日本陸軍を見る目は厳しい。太平洋戦争での結果も踏まえてのことなんだろうけど。それにしても、日露戦争での教訓を活かさず、何も学ばなかった指導部の責任は甚大。反面教師として、よく思いに留めておこう。