初版 金枝篇 上
- 作者: ジェイムズ・ジョージフレイザー,James George Frazer,吉川信
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/01/01
- メディア: 文庫
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だが、われわれが容易のその誤りを看破できるからといって、これらの前提を馬鹿げたものとして一蹴することは、非哲学的であると同時に恩知らずな行いであろう。われわれの現在立っている土台は、幾世代も前から築き上げられてきたものであり、われわれが現在到達しているこの地点に、なんとか辿り着こうとして人類がこれまで費やしてきた、長く痛ましい努力を、われわれはただ、ぼんやりと認識できるに過ぎないのである。われわれは名もなき忘れ去られた労役者たちに感謝せねばならない。主として彼らの忍耐強い思索と飽くなき努力こそが、今日のわれわれを形づくったのである。人類の共有する知の蓄えに、ひとつの時代が、ましてやひとりの人間が、新たに付け加えることのできる知の量はわずかである。そのほんのわずかに加えられたものを自慢し、一方ではその大量の蓄えを無視するということは、忘恩であるのみならず愚かで不誠実な行いということになる。
感想
「スゴ本」サイトで紹介されていた本。神話の成立よりも前にあった古代からの風習・儀式について扱っている。世界各地に似たような物語や風習があるものだけど、その理由が見えてくる。今後、色々な神話を読んでいく時に、その背景に思いを致すことができるようになると思う。
一つの神話を深く見ていくのも面白いけど、こうして並列して見て行くのも面白い。一つを見るだけではその意味を取り違える恐れがあるけど、類似の多数の例を見ていくことで、本当に大事な部分を見極めることができる。そうして意味を抽出することで、似ているとは思わなかったものとの接点を見出すことも出来る。
相対化や抽象化、客観化ってのは僕の好きな考え方だし、とても興味深く読むことが出来た。
著者も言っていることだけど、古代の風習や儀式を、迷信に縛られていると笑うことは出来ない。人は何かを信じたいという欲求・性質を持っており、別の面では同じような迷信を信じていることもあるんだろうから。物語・風習の類似と同じく、どの時代、どの地域の人でも、やっぱり変わらない部分がある。
それでも今があるのは、固定概念を脱却して少しずつ進歩してきた一部の人達のおかげ。その人たちに感謝しつつ、僕も、自分自身の生活における思い込みや流れに抵抗していきたい。全ての行動に自覚的でありたい。
文中、ドイツの「麦の母」の風習についても扱われている。ちょうど「狼と香辛料」ってラノベを読んでいる最中だったんで、タイムリーな読書になったなあ。いつも言うことだけど、こういう繋がりは面白い。