ファウスト
- 作者: ゲーテ,池内紀
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/05/20
- メディア: 文庫
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世の中を駆け通しできた。欲望の赴くところの前髪をつかみ、気に入らなければ放り出した。ひたすら望んで、それをやりとげ、さらに望んで、生涯をつらぬいてきた。地上のことは十分に知った。
認識したものこそ手にとれる。この世の道をどこまでも辿っていく。求めるかぎり苦しみがあり、幸せがある。ひとときも満ち足りることはない。
感想
前に「ゲーテとの対話」を読んだことがあるけれど、その時に読みたいと言っていた「ファウスト」、ようやく読むことができたよ。実に一年以上の期間を空けて。まったくもって気の長い話だ。
読んでおいて言うことじゃないけど、話の筋を知るためには、Wikiを読むのが一番いいな。手っ取り早く理解できる。そもそも、技巧を凝らした詩文を読んだってその機微・情緒を味わえない人間なんで。セリフで成り立つ戯曲形式では、作者の突っ込んだ思想が感じにくい。行間を読めって言われてもね。舞台効果による臨場感は味わえるのかもしれないけど、僕には文章で語り尽くすタイプの本が合ってるな。テーマは好みなんで、色々と考えるキッカケになったのは良かった。ネットで感想や解釈を読んだりも出来たし。
波のある劇的な人生がいいのか、落胆・失望の少ない平穏な人生がいいのか。もちろん人にもよるだろうし、一方を手に入れれば他方が気になったりするものだろうけど。ファウストのように若返ってやり直すことは出来ないんだから、よくよく判断して行動しないとな。今ならまだ修正は効くわけだし。とはいえ、多くを求めてもそれで満ち足りないのならば、何の意味もないと思ってしまうんだけどね。ある時点で満足することになるというのなら、それは早いほうがいい。
気になったのが、有名な「時よ止まれ、おまえは美しい」って言葉。最後にファウストが言ったのかどうか。確かにセリフとして言ってはいるんだけど、未来を夢想し、それが実現した暁にはこの言葉を言う、って言っているだけなんだよな。現時点で成就しているわけではない。確実な未来だから言ったも同然ということなのか、想像の中とはいえ満足しているってことで条件を満たした、ということなのか。いずれにせよ、何だか釈然としない。どうせならきっちりと片を付けて欲しかったよ。