ミケランジェロの生涯
- 作者: ロマン・ロラン,高田博厚
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1963/02/16
- メディア: 文庫
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彼ほど天才の餌食となったものはかつてない。それは彼に襲いかかって屈服させてしまった征服者なのであった。それに対しては彼の意志もどうにもできなかった。彼の精神力も彼の心情もどうにもならなかったとさえ言えよう。これは熱狂的な激昂であり、それを支え保つにしてはあまりに弱すぎる肉体と魂のなかに巣食う恐ろしい生命であった。
彼は間断ない激情のなかに生きていた。はち切れるばかりの力の氾濫に悩まされて、ひとときの休息もなく絶えず行動せざるを得なかった。
彼の天才力はそれを裏切る魂と結びついていた。人はよく執拗に彼につきまとって彼の雄大な計画の実現を皆邪魔してしまった宿命の事を語る。この宿命とは彼自身であった。これは彼の性格の弱さ、意志の欠如から来ている。
彼は芸術においても政治においても、彼のあらゆる行為あらゆる思索においても不決断であった。二つの制作や計画また二つの派の間にはさまってどちらを選ぶかを決めかねた。幾度もやり直して結局完成しなかった。彼はしようと思いまたしたくなかった。一度事を決めるとすぐそれを疑いだした。晩年には何にも仕上げていない。すべてに嫌気がさした。
感想
「座右の古典」で紹介されていた本。ミケランジェロといえば、ルネサンス三大巨匠の一人。その作品はあまりにも有名。この本ではミケランジェロの人となりについて描く。このミケランジェロ像が本当にそのままなのかは実際のところ分からないけれど、こういう「成功」ならば要らないなあ、と思ってしまうね。
前に読んだフリードリッヒ2世なんかは、中世真っ只中の13世紀の人だけど、時代の空気に染まらず自由に生きた。ミケランジェロはそれから約300年後の、ルネサンスも終盤の人。宗教改革なんかによって教会の支配もその絶対性を失ってきていた時期だと思うけど、ばりばりに縛られて生きていたんだなあ。
これが、芸術家として生きるのでなかったのならばまた違ったのかも。当時芸術で生きていくには教会なり商人なりの庇護下にいなければ難しかった。独立して生きていけないってのは辛いよな。まあ、どんな分野にせよ自由が得られるようになったのは近現代になってからのわけだし、今が恵まれているってことなんだろう。
いくら才能があって「成功」したとしても、本人がそれを求めていないのならば全く意味がない。「成功」がそのまま「幸福」と結び付いているわけではない。才能が人生の足を引っ張ることもある。まあ、凡人の僕には関係の無い話だけど。
それにミケランジェロの場合、その性格が生き辛さを助長している。つくづく、才能よりも気質のほうが大事だと思うね。流されるままでは望む生き方は出来ない。それが、最大限の成果が得られる道だったとしても。今の時代も、自由に生きるための枷となる状況や世間の風潮は周りに溢れている。それに盲目的に従うのではなく、よく生き様を考え、抗っていきたい。