人体600万年史 上−科学が明かす進化・健康・疾病
- 作者: ダニエル・E・リーバーマン,塩原通緒
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/09/18
- メディア: 単行本
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要するに、人間の適応の多くは必ずしも、肉体的、精神的な幸せを促進するよう進化してはいないのである。
ホモ属が歩行だけでなく走行にも優れるように、強く選択が働いたことを示している。それはおそらく腐肉漁りと狩猟のためだろう。一方で、長い脚や短い足指のようないくつかの適応は、私たちの木登り能力を犠牲にするものでもある。
人間は長い距離をらくらくと走れる数少ない哺乳類の一つなのであり、暑いなかでもマラソンを走れる唯一の哺乳類なのである。
ホモ・エレクトスとその子孫である旧ホモ属に明確にあらわれている数々の変化のなかでも、何より目立って印象的なのは、脳が大きくなっていることだ。巨大な脳が進化した理由は、おそらくそれによって思考や記憶など、複雑な認知作業が容易になるためだと思われるが、賢いというのがそんなにいいことなら、なぜもっと早くから大きい脳を持つようになっていないのか。その答えは、エネルギーに関係している。大きな脳はとんでもなく大量のエネルギーを消費するから、たいていの種はとてもそんなコストを払いきれないのだ。しかしホモ・エレクトスとその後の旧ホモ属は、狩猟採集の利益配当のおかげで、かつては許されなかったような大きい高コストの脳を持てるようになったのである。
感想
スゴ本サイトの「この本がスゴイ!2015」で紹介されていた本。お奨めどおり、とても面白い本だった。「銃・病原菌・鉄」が様々な地域での人類の発達模様を描いた作品ならば、本書はその前段階の、動物が進化の果てに人類に到達するまでの物語。どのような選択・適応に基づいて、現在の形になっているのか。「銃・病原菌・鉄」と同じく知的好奇心を刺激される、興奮するような読書体験になった。
人類が幸せを目指して進化したわけではないってのは当然ではあるけれど、面白い事実。ただ、個人的には、繁殖なんてどうでもいいから幸せになりたいよな。幸いというか、僕は繁殖よりも幸せ方面に適正がありそうなんで、それに逆らうことなく生きていきたい。
こうした進化の傾向から、今後の生き方を模索するアプローチは興味深いけど、大した結論が得られるとも思えないんだけどな。下巻でそれにどこまで迫っているのか。余裕が出来たら読んでみよう。